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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)214号 判決

控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人を被控訴会から除名したことの無効であることを確認する。被控訴人が昭和二十一年十月一日附で控訴人に対し、常任理事を免じ京都支部長を解いたこと及び大木勇に対し、常任理事京都支部長を任命したことの無効なることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めると申立て、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の供述は、当審においてそれぞれ左記のとおり主張した外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人の主張、

(一)  被控訴会の総代会に関する規程は、昭和十六年六月十日認可と同時に実施せられたものであり、これによれば、総代会は、各支部毎に会員数の割合に應じて任命された総代のみを以て構成し、理事監事等の役員が総代会に出席して議決権を行使しうる旨の規定は存しなかつた。被控訴人は、同年十一月規程の一部改正により右理事者の議決権行使に関する規定が挿入せられたのであると主張するけれども、これは定款に基く適法な改正手続を経たものではなく、会長が勝手に定めて主務官廳に届出したに過ぎない。而して総代会は、総会に代る意思決定機関であり、執行機関たる理事者を監督する地位に在るものであるから、総代会に対して責任を負う理事者が自ら総代会において議決権を行使することは、団体法の原理に反し、本來許されぬところである。従つて右規程の改正は、形式要件を欠き、実質上も無効である。

(二)  被控訴会の定款第三十五條には書面による議決を以て総会の議決に代える定めがあり、これが定款第三十七條により総代会にも準用されている。総会において書面決議の方法によることを得るとしたのは、全国に居住する多数の会員を一所に招集することが事実上困難な場合を予想し、かゝる便法を設けたのであるが、これはあく迄も例外であり制限的に解釈運用しなければならない。そこで総員の集会に代え、特定の代表者の会合する決議機関を設け、書面決議の如き例外的な決議方法を用いることを避けんとするのが、総代会の置かれた所以である。従つて事の性質上、総会における書面決議の規定は、これを総代会に準用することは許されないものと解すべく、これは被控訴会が未だ曽て総代会の決議を書面決議によつて行つた前例のないことに徴しても説明しうる所である。

(三)  総代会に書面決議が認められるとしても、その書面決議は如何にして成立するかの問題がある。総代会は意思決定の機関であり、その決議は団体の意思となり、従つて單一のものでなくてはならない。団体員個々の意思が如何程多数集積されてもそのまゝでは団体の意思とはなり得ない。書面表決による賛否の数を計算して見ても、それ丈けで団体意思が形成される訳のものではなく、団体意思形成の爲めには矢張り決議が必要である。本件においては会長管理の下に総代会が開かれ、書面表決をも加えて決議が成立し、総代会の意思決定がなされたものと見るべき事跡がなく、現に適法な議事録も存しないのである。

(四)  被控訴会の定款第三十五條にいわゆる「事ノ軽微ナルモノ」とは如何なる事項を指すかというに、それは書面による表決を以て会議の目的を達しうる場合でなければならない。即ち、議案の送付を受けた者がその書面丈けで直ちに提案の趣旨を諒解し当否の判断を爲しうる場合、換言すれば付議事項が簡單明瞭で、例えばその事につき先例があるとか公知の事実で証明資料を要せぬとか、判断上に困難なき場合がこれに属するのである。かゝる意味で会員の除名は一般に軽微事項ではなく、殊に本件は多年京都支部長に在任して、被控訴会の発展の爲めに盡したる控訴人を除名せんとし、しかも除名原因たるや京都支部内における役員爭奪運動に基因するものであるから、書面のみによりたやすく是非を判定しうるものではなく、従つてこれを軽微事項ということはできない。

(五)  交通難又は緊急措置の爲めに書面決議を爲すことは許されない。定款上書面決議をなしうるのは、案件自体が軽微である場合に限られ、これが軽微にあらざるときは、交通難又は緊急の必要に藉口して書面決議を爲すことのできないのは勿論であり、しかも当時の社会状態は、終戦後既に二年を経て相当落着を取戻し、交通事情等も総代の参集を妨げる程劣惡であつたとはいい得ない。

(六)  一般に会議体においては欠席者は議決権を抛棄したものとみなされ、出席者丈けで決議するのが通例であるが、書面決議の場合には初から出席を要しないのであるから、決議に参加するものは当然その構成員全員であつて、書面による回答を提出したものに限らるべきではなく、定款に明文の定がない以上、書面を出さなかつた者と雖も條理上議決権を奪わるべきいわれはない。然るに本件除名決議においては、議案に対する賛否の回答のみを集計して決議が爲されたものとしているのであるから、その違法なことは言を俟たない。

(七)  総代会の構成員数につき、被控訴人は原審において総代は三十三名役員は三十二名計六十五名であると主張し、当審においては屡次その主張を変更した末、総代数を四十名役員数を三十三名計七十三名としている。控訴人が総代の数に追加した東海支部六名中国及び九州支部の各二名は何時如何なる手続で任命せられたか明かでなく、総代としての適法な資格ある者とは認め難い。

(八)  本件総代会の書面決議の管理も適法ではなく、会議の日である昭和二十二年四月十日の午後十二時迄に到着した書面は当然賛否の数に加うべきであるにかゝわらず、これを同日午後二時で打切つたり、又一旦午後二時打切りながらも、その後に到着した前川万次郎と小西彦太郎の分を理由なく加算しており、甚しきに至つては同月二十三日開かれた理事会の席上兵庫支部監事大山惠生が先に兵庫支部の分は一應賛否を保留したが本日全員賛成と改める趣旨の発言をするや、一同これを諒承してその訂正方を決定し、右決議を実施している。これがいずれも違法であることは多言を要しない所である。又書面上の賛否の数を計算するに当つても、本間靖也の如き総代にして理事を兼務するものを各資格毎に投票権を認めて二票とし、前川万次郎の條件付賛成を有効とし、天野金次郎、野津勝次郎の意見を付し賛否を明かにせぬものを賛成のうちに数え、深川邦一の分を賛否いずれにも加えず保留とする等幾多不当なる取扱が爲されており、しかも右は会長立会の下に投票の効力を決定したのでなく單に事務当事者が勝手に開封し、これを計算して報告したものにすぎない。

これを要するに本件除名決議はその手続が違法にして無効たること明かである。なお控訴人は当審において除名無効の外に被控訴人の控訴人に対する京都支部長解任、常任理事罷免及び大木勇に対する常任理事京都支部長任命の無効確認を訴求するのであるが、これが無効であるとすれば、控訴人の事務引継の拒否は正当なる処置であり、除名の理由とならぬ結果となるので、控訴人はこれが即時確定につき法律上の利益を有するものである。

被控訴代理人の主張

(一)  総代会は、定款に基き適法に制定された総代会規程第八條により、総代の外に役員即ち会長、理事、監事を以て構成し、これ等は総代会において議決権を有する。役員は單なる執行機関ではなく、例えば理事会を構成し、総代会と異る立場で会の意思決定を爲す決議機関ともなるのであつて、役員が総代会の構成員となることは、法理上何等支障のあるべき筈はない。

(二)  総代会の構成員たる総代の数は、昭和二十二年四月十日当時四十名役員は三十三名計七十三名であるが、本間靖也は、理事と総代を兼務していたので、投票権者数は全体で七十二名となる。右総代のうち東海支部所属の四名、中国、九州地方の各二名は昭和二十一年六月二十一日附会務報告書(乙第一号証)作成後同月下旬適式に任命されたもので、これに対しては、本件総代会の通知状が発送されておる。

(三)  本件総代会は会長がこれを管理し、常任理事佐藤善助、島田宏立会の下に開票採決が行われた。投票数四十四票(但し本間靖也の二資格による投票二票中一票を除外したもの)内訳除名賛成三十二票、除名賛成以外十二票(否一票川西勇、棄権七票奥田正雄、大山惠生、七條正之、多賀恒一、福田慶彌、田沼始、角沢謹一郎、保留三票日下部武丸、天野金三郎、野津勝治郎、無効一票深川邦一)であり、絶対多数で控訴人の除名が議決されたのである。前川万次郎の賛成投票には事情の明確なる説明を求むと附記してあるので仮にこれを保留或は無効とすれば、賛成は三十一票となるが、賛成決議の絶対多数たることには変りなく、又天野、野津両名の投票には意見を書き賛否を明記しないので、これを保留としたが仮に無効とするも決議の結果に影響ないことは勿論である。

その他控訴人の主張は凡て否認する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人日本計理士会が昭和十五年十二月三日全日本單一の計理士会として設立せられ、控訴人がその主張の日に京都支部長常任理事に任ぜられたこと、被控訴会の定款上理事の任期は三年、常任理事及び支部長の任期は理事の任期によることとなつており、右役員の任命は会長の専権に属する旨定められていること、控訴人が昭和二十一年八月九日被控訴会に宛てゝ京都支部長の辞任届を郵送したところ、被控訴会は、同年十月一日付で控訴人に対し、「依願日本計理士会京都支部長ヲ解ク」「常任理事ヲ免ジ理事ヲ依嘱ス」なる二通の辞令を発すると共に、その後任として京都支部会員大木勇を同支部長常任理事に任命したこと、控訴人が大木勇に対し支部長の事務引継を拒否したこと及び被控訴会の中瀬会長その他に対し被控訴人主張の如き文詞を連ねた各信書を発したこと、被控訴会が昭和二十二年四月十日総代会の書面による決議を以て控訴人を除名し、直に控訴人にその旨通知したこと等の事実は、すべて本件当事者間に爭を見ないところである。

第一除名原因の有無

被控訴人は、控訴人が京都支部長の任を退いたに拘らず、なおも支部長を潜称し、その計理士事務所に支部の表札を掲げ、或は支部長の肩書ある名刺を使用し、後任者に対し暴言を以て事務の引継及び財産の引渡を拒絶したのは、会の秩序と統制を紊るものであり、その所爲除名に値すると主張するに対し、控訴人は、右事務の引継を拒否したのは、控訴人の支部長辞任及び大木勇の支部長任命が共に無効にして、控訴人が依然支部長の任に在つたが爲であり、その他右事務引継の拒否につき正当の理由を有したによると主張するので、以下控訴人の主張する所に従い逐一その当否を審究する。

(一)  控訴人は先ず、右辞任届は京都支部会員田中一男を後任支部長に任命することを條件としたものであるところ、本來かゝる行爲はその性質上條件に親しまぬものであるから、右辞任の意思表示は無効であり、仮に有効としても被控訴会は控訴人の指定する田中一男に代えて、大木勇を後任支部長に任命したから、右辞任の意思表示は條件不成就により効力を生ぜず、従つてこれに基いて爲された控訴人の支部長解任並びに大木勇の後任支部長任命は、共に無効たるべく、控訴人は依然京都支部長の任にあると主張するけれども、右辞任届が控訴人の主張するような條件を付したものであることについては、この点に関する原審(第一回)並びに当審の控訴本人訊問における供述は後記証拠に照し措信し難く、控訴人が右辞任届の複写なりと主張する甲第七号証の一も右控訴本人の供述を外にしてはその成立を認むるに由なく、他にこれを確認するに足る証拠は存しない。却つて原審並びに当審証人中島善直、藤原竜太(原審は第一回)中瀬勝太郎の各証言と成立に爭のない乙第七号証の一及び三の記載を綜合すれば、右辞任届には何等の條件なく、只控訴人がこれと同封して被控訴会長中瀬勝太郎に送付した京都支部役員爭奪運動経過報告の件なる書面中に、控訴人の意見として、後任支部長には田中一男を適任と信ずる旨記載し、同人を推薦したにすぎぬ事実を認めるに十分である。それ故控訴人の前記主張は採用し難い。

次に、原審並びに当審証人中島善直の証言によれば、右控訴人の辞任届は、昭和二十一年八月十三日被控訴会に到達し直に受理せられたことが明かであるが、控訴人は、その後同年九月十七日付同月二十日到達の書面を以て先に提出した辞任届を撤回する旨の意思表示をしたから、右辞任は最早その効なき旨主張する。然しながら一般に法人とその役員との関係は委任関係に外ならず、役員は民法委任に関する規定に従い、何時にても法人に対する一方的意思表示によつて、これを辞任しうべく、その意思表示が法人に到達するときは、これによつて直に辞任の効果を生じ、役員を退任するものというべきであり、成立に爭のない乙第三十九号証により明かな如く、被控訴会の定款第十三條には、会員は正当の事由がなければ支部長たることを辞することができぬ旨規定されているけれども、これは不当な理由に基く辞任を防止せんとするに止り、辞任を被控訴会の同意若しくは許諾にかゝらしめたものと解することはできぬから、控訴人の発した辞任届はこれが被控訴会に到達すると共にその効力を生じ、該意思表示自体に瑕疵の存する場合でない以上、爾後の撤回は無効であり、これによつては辞任の効果を左右し得ざること明かである。(それのみでなく原審(第一回)並びに当審証人藤原竜太の証言及び同証言により眞正に成立したと認める乙第八号証の二によれば、控訴人は、昭和二十一年九月二十一日被控訴会長中瀬勝太郎の代理者である常任理事藤原竜太に対し、右辞任届撤回の意思表示を更に撤回し、無條件で辞任する旨表明しているのである。)成立に爭のない甲第九号証の一ないし三によれば、被控訴会においては控訴人の辞任後も引続きこれを京都支部長として取扱い、同年九月四、五日頃まで控訴人に宛て会務に関する書類を送付しているように見えるが、これは反証のない限り、定款(前記乙第三十九号証)第十八條の「役員ハ任期満了後ト雖モ後任者ノ就任スル迄仮ニ其ノ職務ヲ行フ」旨の規定の趣旨に則り後任支部長の任命あるまで一時支部長の職務を取らせていたにすぎないものと認めるのが相当であるから、同号証によつては前認定を動かすに足りない。

控訴人は更に、被控訴会の定款上役員の任命は主務大臣の承認を受けることを要する(第十七條)にかゝわらず、大木勇の支部長任命については主務大臣の承認がなく、その任命は無効であるから、控訴人がかゝる者に対し事務引継を拒絶したのは当然であると主張する。そして右任命につき被控訴会が主務大臣の承認を求める手続を取らなかつたことは、被控訴人の認めるところであるが、国家の強力な監督の下に立つ公法人と異り、民法上の單なる任意加入の社団法人たるにすぎない被控訴会の性質に照し、右規定は役員任命の効力発生要件を定めたものではなく、役員の任命は会長の行爲(定款第十六條)により直にその効力を生じ、只主務大臣の不承認によつて將來に向いその効力を失うべく、從つて被控訴会が右承認申請の手続を爲さぬときと雖も、会長その他当局者が事務上の責任を問われることあるは格別、任命の効果には何等影響なきものと解するを相当とする。原審証人中瀬勝太郎の証言によるも、被控訴会においては事実右のような解釈に從つて多年会務の運営を爲して來たことを窺いうべく、控訴人自身もその主張の如く被控訴会の創立以來常任理事京都支部長の職にあつて、会の要務に参與していたのであるから、右取扱の慣例を知らざる筈はなく同人が眞実主務大臣の承認なき爲め、大木の任命を無効なりと誤信していたものと見ることはできない。(成立に爭のない乙第二十一号証第二十二号証の一、二によるも、控訴人は日本計理士会々長には役員の任命権あるもこれを罷免する権限なく、從つて控訴人に対する支部長解任は無効であり、右解任を前提とする大木の支部長任命も亦当然に無効であるとの理由により、大木勇に対する事務引継を拒否したに止り、大木がその任命につき主務大臣の承認を経ておらぬことには何等言及していないところからしても、これを推知することができよう。)

なお又控訴人は、事務引継は單なる儀礼的のものであり、その拒絶は別段会の秩序を紊乱するものではなく、事実引継ぐべき財産もなかつたので引継を要しなかつたと主張するけれども、支部長更迭の場合前任者が後任者に対し、從前事務処理の情況を説明し必要なる帳簿書類と共に事務の引継を爲すべきことは、後任者の事務遂行上必要欠くべからざるものであることは敢て多言を俟たぬところであり、後任者の要求あるにかゝわらず引継ぐべき財産なしと称して事務の引継を拒否することは許されない。原審における証人野々口米吉の証言及び控訴本人訊問の結果(第一回)によれば、日本計理士会京都支部の仮事務所は、控訴人の計理士事務所内に置かれ、金銭出納帳その他重要な会務書類も悉く控訴人が同所で保管していたことが明かであるところ、原審(第一回)並びに当審における証人大木勇の証言及び前記乙第二十一号証第二十二号証の一、二によれば、大木勇は後任支部長として自身又は人を介し控訴人に対して屡次事務の引継を求めたに拘らず、控訴人はその都度大木の支部長任命を否認し、飽くまでも自己が正当の支部長であると主張して事務引継の要求を拒否し後任者の事務遂行に妨害を加えたことを認めることができる。控訴人のかような行爲は、單なる事務上の懈怠たるに止らず、実に被控訴会の体面を傷つけ、その統制と秩序を紊ること甚しく、その定款第五十二條第一項第二号に規定する「本会ノ体面ヲ毀損シ又ハ秩序ヲ紊乱スル行爲アリタルトキ」というに該当し、除名の事由たるべきものである。

(二)  ところで如何にしてかゝる対立的の状態を生むに至つたかその経緯を調べて見るに、成立に爭のない甲第四号証の二第五号証第六号証の一、二第八号証の一、二第十号証の一、二第十二号証の一、二乙第七号証の三第十四ないし第十六号証の一、二当審証人宇野勝次、平井嘉一郎の各証言により眞正に成立したものと認める乙第四号証第五号証の三第六号証当審証人藤原竜太の証言により成立を認めうる乙第八号証の二原審証人中瀬勝太郎の証言により眞正に成立したと認める乙第十一号証原審並びに当審における証人中島善直、本城初治、中瀬勝太郎、片桐勝昌、宇野勝次、斉藤貫之助、平井嘉一郎、神中成浩、大木勇の各証言並びに控訴本人訊問の結果、原審証人荒尾信太郎、土井清三、鎌田末治、加藤正信、当審証人山本己四治の各証言を綜合すれば、凡そ次の如き事実を認めることができ、控訴人の挙げる証拠にして右認定に牴触するものはこれを採用することはできぬ。即ち控訴人は昭和十一年十二月三日京都計理士会を創立してその会長となり、昭和十五年十二月三日これが被控訴会に統合せられて日本計理士会京都支部が設立せられるや、その支部長の地位につき、今次終戰後まで引続き重任して、京都地方における同業者間に重きを爲して來たのであるが、その性行独善孤高に過ぎる嫌ありとして、漸く会員間の信望を失い、早晩その地位を去らざるを得ぬ情勢となつた。昭和二十一年五、六月頃より被控訴会の役員更迭の議が起きると、控訴人はこれを機会に辞任を決意し、被控訴会に宛て前記の如く辞任届を提出したのであるが、当時支部会員の多数は結果して控訴人を排し、計理士として相当の地位経歴を有する古参の会員大木勇を後任支部長に迎えることに一致し、大木亦その要望に應えて支部長たることの推薦を受諾したのである。然るに控訴人は大木の後任支部長に就任することを快しとせず、これを防止する爲め被控訴会本部に対し田中一男を適任者として推薦し、かくて若し大木の任命を見ざるときは連袂して被控訴会を脱退するも止むなしと迄強き決意を表明した多数の支部会員と対立するに至つた。ここにおいて被控訴会本部においても事の愼重を期し、常任理事大阪支部長たる藤原竜太を会長中瀬勝太郎の代理として事情調査の爲めに現地に派遣し、右藤原において中瀬会長の名を以て京都市中京区東洞院六角入ル外興ビル四階に、京都支部会員の参集を求め、詳さにその意向を聽取したところ、大勢控訴人に與せずして大木推薦に一致していることを看取し、被控訴会の中瀬会長にその旨報告したので同会長はこれに基き同年十月一日付で大木を支部長に任命するに至り、辞令書交付等一切の措置を藤原龍太に委任し、同人において控訴人の支部長解任並びに大木勇の後任支部長任命の辞令書を作成してこれを同人等に交付したのである。控訴人はこの間の経緯は凡て大木一派と右藤原の策謀に基き、事情に疎い本部当局者がこれに乘ぜられたものと爲し、右辞令書を以て藤原の僞造にかゝるものと主張し、藤原、大木、中瀬等被控訴会の役員に対し次記の如き常軌を失した言辞を以て支部長更迭の不当を鳴らし、その効果を否認し、極端なる惡罵を加えるに至つたのである。即ち控訴人は(イ)昭和二十一年八月九日附中瀬会長宛信書(乙第七号証の三)で大木勇、平井嘉一郎外多数の京都支部会員を不穩分子、支部役員爭奪運動と呼び、(ロ)同年九月二十七日附同様の信書(乙第二十七号証)で大木勇、神中成浩等多数の会員を不平分子、加藤正信を「カフエーゴロ」大木を「ゴロツキ」「三百代言」蛇蝎と罵り、(ハ)同年十月十二日附及び同月二十五日附同様信書(乙第二十八、九号証)で控訴人に対する辞令書を僞造又は不正文章として否認し、これが発行に関與したる犯人(藤原龍太を暗示)については、連累者を調査の上嚴重なる処置を講ずる。藤原その他関係者一同に対し、起訴その責任を追求する。藤原は除名の要ある旨(ニ)同月三十一日附被控訴会長及び理事深川邦一宛の信書(乙第三十号証、第三十七号証)で、控訴人の支部長解任は無効であり、藤原竜太に贈收賄の事実あり藤原の如き低級な人物が役員として存在することは、全計理士会の恥辱断じて黙し難く、此の機会に醜類一掃のため起訴膺懲する。(ホ)同年十一月五日附中瀬会長宛信書(乙第三十一号証)で支部長更迭問題は大木一派及びその饗應を受けた藤原竜太が引き起したもの、若し彼等に乘ぜられるときは訴訟を提起し、関係役員を除名する等と記載したのであつて、このことは控訴人もこれを認めて爭わないのである。控訴人は右は紛爭の渦中にある者に対する内輪同志の遠慮のない文章であり、除名原因として採り上げるに値せぬと主張する。そして原審(各一回)並びに当審における藤原竜太の証言及び控訴本人訊問の結果と前段認定の経過に照せば、控訴人がかゝる信書を各方面に発するに至つたのも一面において京都支部会員の多数が控訴人を排し大木勇を後任支部長と爲すべく結束して強力なる運動を展開するに至つたのと、控訴人の從來交誼のあつた藤原竜太に対する田中一男の後任支部長実現方の懇請が効を奏しなかつたことに対する憤懣の念によつて激発されたものの如く、一時の行き掛りに出たものであることはこれを認めうるのであるが、その言辞如何にも低劣野卑であり、如何なる動機あるにせよ、かくの如き極端なる惡罵を以て同輩会員並に役員に報い、これに威圧を加えるが如きは、著しく会員相互の融和を妨げ、会の平和を破壊し、会の目的達成に障害を與えるものといわざるを得ず、任意加入の職業団体たる被控訴会としては、その平和と秩序を維持する爲め前記定款第五十二條の規定に照し、控訴人を除名するも止むを得ざる所と爲すべきである。

(三)  控訴人が京都支部長として大木勇外数名の者を会費滞納の廉により本部に除名申請をしたことは、当事者間に爭なく、原審並びに当審における控訴本人の供述や控訴人がこの点の証拠として挙げる甲第十一号証の二によるも右大木等に会費滞納のあることはこれを確認し難いのであるが、少くも控訴人自身はその事実ありと信じて除名申請に及んだものの如く、又被控訴人が主張する控訴人の私行上の瑕疵の如きは、控訴人を除名処分に付する原因となつたものとは認め難いので、その眞実の有無を調査すべき限りではない。しかし控訴人除名の事由としては前記(一)(二)の点のみを以て十分である。

第二除名手続について、

(一)  本件除名処分は、前記の如く定款に基き総代会の書面上の決議によつて爲されたものであるが、控訴人はその手続上にも幾多の非違が存し、先ず被控訴会が除名処分を爲すに当り、被除名者の意見弁解を聽かないのは、極めて非民主的にして団体法の精神に反する、從つて控訴人の弁解を聽かずして爲した本件除名処分は無効であると主張する。一般に団体がその団体員を除名する場合には、事の愼重を期し除名せんとする者の意見弁解を求めることが、手続としては民主的であり、団体員の利益保護の爲めに望ましいことはいうまでもないが、団体の統制と秩序が破壊され、団体が自衛上これを排除する爲め時日を猶予し難いとき、その他事案の性質上その弁解を聽くまでの必要のないときは被除名者の意見を聽かずにこれを除名しうべきことは当然であり、しかも被控訴会の定款上除名手続の要件としてその者の意見弁解を聽くべきことを規定していないのであるから、当審証人藤原竜太、片桐勝昌の各証言及びこれにより眞正に成立したことを認め得る乙第十二号証によつて明かなとおり、被控訴会が京都支部よりの控訴人除名申請に対し、藤原、片桐両常任理事をして事実調査に赴かしめ、その調査報告に基き最早控訴人の意見弁解を徴する必要なきものとして直にこれを除名処分に付したのは、毫も違法ということはできない。

(二)  成立に爭のない乙第六十一号証の日本計理士会総代会規程によれば、定款第三十六條により総会に代りその権限に属する事項を議決する機関たる総代会は、定数の総代と役員とを以て構成し、役員は総代会に出席して決議権を行使することを得る旨規定されている、(同規程第八條)。控訴人は、右第八條の規定は成規の改正手続を履まず、会長が勝手にこれを挿入して主務官廳に届出たものであり、且つ実質的にも総代会の性質に反し無効であると主張するけれども、控訴人の立証によつては前段事実は未だこれを認めるに足らず、却つて当審証人中瀬勝太郎の証言によれば、右規定は昭和十六年中被控訴会の機関により適法に制定され主務官廳の承認を得たものであることを認めうる。被控訴会の定款によれば、役員は会員のうちより会長が任命するのであり、役員に就任するも会員として総会の構成分子となりうべきことは当然であり、只会議の目的たる事項が役員の責任免除に関する等その利害に関係するときは役員は議決権を行使し得ざるに止まる。かように執行機関たる役員が決議機関の一員となることは、定款に特別の規定なき限り法律上何等支障なき所であるから、役員が総会に代るべき総代会の構成員となることも敢てこれを否定すべき理由なく、控訴人の主張は全く採るに足らない。

(三)  控訴人は、又定款第三十五條の総会における書面決議の規定は同第三十七條により総代会にも準用されているけれども、本來多数会員の集会を困難とする場合に備えた書面決議の方法は、限られたる総代の会合にこれを準用することは性質上許されぬものであると主張する。しかしながら被控訴会の総代会の構成員は、後記の如く昭和二十二年四月十日当時において総代四十名役員三十三名計七十三名の多数に上り、これが全国に散在するのであるから、かゝる多数の者の集合を困難とする事情も往々にしてありうべきことは当然予想せられるところであつて、総代会に在つても総会におけると同様簡易なる書面決議の方法によることを得るものとする必要と実益の存することは明かであり、定款上現に存する右準用規定の効力を奪うべき合理的の根拠を見出すことはできない。控訴人の右主張も採用の余地はない。

(四)  総代会の決議が書面による議決の方法によつて爲される場合、その決議が如何にして成立するかというが如きは、さして疑問の余地なき事柄であろう。書面による議決という以上、その構成員の議案に対する賛否の意見表明はすべて書面によるべく、或者は書面により或者は口頭によつて表決を爲すことは許されない。從つてその決議は総代会の開かれる日時までに一定の場所に到達した賛否の意見を記載した書面を、その賛否の別によつて分ち、多数を得た意見がそのまゝ総代会の決議となるものと解するより外はない。右書面による意見表明の有効、無効賛否の採決は、定款第三十七條第二十八條により総代会の議長として議事を主宰すべき地位にある会長がこれに当るべきものであろう。控訴人は、書面決議の場合には通常の会合の場合と異り、欠席者の観念なく、決議に参加する者は構成員全員であり書面上の回答を提出した者に限らるべきではないと主張するけれども、書面による賛否の意見を表明せぬ者は、自己の議決権を抛棄したものと見るべきであるから、これを欠席者に準じて取扱うべきことは当然であり、從つて決議は寄せられた書面に基き、その賛否の数の多少を弁じて、多数を占めた意見に從い決定さるべきものと解するを相当とする。

(五)  控訴人は、会員の除名は、定款第三十五條によつて書面決議を許すいわゆる軽微なる事項には該当せぬ。その軽微なりや否やは書面のみを以て議案の趣旨を諒解し当否の判断を下しうる簡明な事項に限られるものと解すべきところ、除名は、会員の資格を剥奪するものでありそれ自身重要性を帶び、書面のみによつては議案の当否を即断し難いのであるから、書面決議によることを得ざるものというべく、交通難若くは緊急の必要に籍口して書面決議の方法を採ることは許されないと主張する。被控訴会の定款上事の重要なりや軽微なりやを決すべき基準については何等の規定がないのであるから、結局被控訴会の目的性格、案件自体の性質及び書面決議の制度が設けられた趣旨等に照し個々の場合すべての事情を綜合して合理的にこれを判定するより外はないのである。控訴人の説く所は、確かに一つの基準とはなりうるが、なお上に挙げた諸点をも考慮する必要あるものと考える。そこで本件につき按ずるに一般に会員の除名は、その会員たる資格を剥奪するものであるから、除名される者の利害に影響する所多大であるともいいうるが、一面被控訴会の性格について見れば、会員の加入脱退を任意とする同業者団体にすぎず、これに加入すると否とは業務上直接の影響なく、会員を除名せられても、計理士の業務に從事する上に何等の支障なき点よりすれば、強制加入制度を取る弁護士会の場合と異り、個人の利害に影響する所比較的軽く除名は必ずしも書面決議に適せざるものとはいい難い。これを被控訴会の利害の上より観察すれば、全国多数の会員の中よりその会に止らしめるのを適当とせぬ特定の一人を排除する丈けのことであり、京都支部においてこそ特殊の事情より支部会員の関心の的となつているのであるが、被控訴会全体としてはさして重要なる問題ではなく、又書面決議の制度が置かれた趣旨からすれば、多数の会合を困難又は不便とする事情の存する限り、これとの関連において事の軽重を判定すべきことは当然であるから、当時における交通事情の困難食糧事情の劣惡東京における宿舎設備の貧弱等を考慮すれば、一会員の除名の当否を議する爲め全国各地より七十余名に上る総代及び役員が東京に参集することは事実上困難であり、しかも事案を未解決のまゝに放置することが許されぬとすれば、書面決議の便法によるより外はないのである。以上の諸点を綜合するに、本件の場合被控訴会が控訴人の除名を総代会の書面決議に付したのは妥当なるを失わぬものというべきである。控訴人は、本件除名の議案は書面のみによつては当否を判断し難く書面決議に適せぬ旨主張するけれども、当審証人中瀬勝太郎、中島善直の各証言及び右中島の証言により眞正に成立したことを認める乙第五十七号証によれば、控訴人除名の件については、中瀬会長の外に島田宏以下六常任理事本間靖也以下五理事が出席して開かれた昭和二十二年二月二十一日の理事会に上程され、提案者たる京都支部長大木勇より提案趣旨の説明が爲され、これを総代会の議に付すべきことを決し、各総代役員にこれを通知したのであるが、前記理事会に出席した各常任理事及び理事は、自己所属支部会員に対し理事会における審議の結果につき詳細なる説明を爲す仕組となつておることを認めうる。從つて各総代役員はこれにより議案の趣旨を諒解の上、書面上の表決を爲しうべく、事実多数の総代役員は後記の如く議案に対する当否の判断を爲し、書面決議に加つたのである。それ故本件は議案の性質上書面のみにより当否を決し難く、從つてこれを書面決議に付し得ざるものであるとの控訴人の主張は採用することはできない。

(六)  本件総代会の書面表決の賛否の内容及び数に立入り檢討するに先立つて、当事者間に爭のある当時の総代会構成員数につき審査するに、成立に爭のない乙第一号証第三十六号証の一、当裁判所が眞正に成立したものと認める同第四十三号証の一、二第六十三号証の当審証人中島善直、深川邦一、増田威海、永岡茂の各証言を綜合すれば、適法に任命された総代数は四十名役員数は会長以下三十三名計七十三名のところ、東京支部所属本間靖也は役員にして総代を兼ねているので、決議に加わるべき実人員は七十二名であることが明かである。次に当審証人中島善直の証言及び前記乙第六十三号証によれば、本件総代会における投票の審査は、昭和二十二年四月十日清水ビル内本部事務所において同日午後一時より二時までの間会長中瀬勝太郎、常任理事島田宏、佐藤善助立会の下に爲されたところ、右時刻までに寄せられた投票数は合計四十三票で、うち賛成三十二票反対一票保留棄権合せて十票と計算し議案に対する過半数の賛成を得てその旨の決議成立したものとして取扱つたことを認めることができる。しかし同証言によれば同日中に丸ビル事務所に更に二票(前川万次郎、小西彦太郎分)が届けられたのであつて、右証言によつてその成立を認めうる乙第十三号証の一の総代会通知書によれば、議案に対する賛否の回答は同月十日までに送付すべき旨定めてあるので、同日中に到着した分はこれを一應有効とすべきは当然であるから、投票数は合計四十五票となるのである。今その各個の投票について詳さに檢討するに、(一)除名賛成は三十一票(前田豊二、辰己重彬、杉山正好、神足庄市、中原徳一、関口三四郎、片桐勝昌、森吉之助、柴田治、小西彦太郎、田中繁造、丸山嘉一郎、本間靖也、但し同人の分は二票のうち一票を除外する、原田貞一、斎藤貫之助、中野市藏、白井種雄、佐生斎知、恩河朝健、篠原武文、石垣喜一、渡辺義雄、乙訓寛治、安藤錠三九、林陸、永島運一、坂元順吾、藤井藤三郎、藤原竜太、池田宗二、中田[金祭]之助)、(二)除名賛成以外の票。反対一票(川西勇)棄権七票(奥田正雄、大山惠生、七條正之、多賀恒一、福田憲彌、田沼始、角井謹一郎)保留一票(日下部武丸)無効四票(深川邦一、前川万次郎、天野金三郎、野津勝次郎)計十三票で、投票過半数の賛成により決議の成立を見たことには変りない。(なお成立に爭のない乙第十三号証の二には控訴人除名の議案につき賛四十一保三否一と記載してあり、当審証人中島善直の証言によれば、右は本件総代会の後同年四月二十三日の理事会の席上兵庫支部の大山理事より同支部関係の棄権七票を賛成と訂正する旨の発言があつたので、この分を加算したものであること明かであるが、総代会の決議は四月十日成立し、その後における右意見の訂正は何等の効力なきものである。)控訴人は、右賛成投票のうちに算えた小西彦太郎の分は清水ビルにおける投票審査後に到達したものであるからこれを除外すべきであると主張するけれども、右一票を除外して見ても除名意見の絶対多数たることには消長なく、更に控訴人は、右総代会に付議せられた除名の提案は京都支部集会の違法な決議によつて爲された除名申請に基くものであり、從つてこれに対する除名決議も無効であるかの如く主張するも、かゝる提案の動機に関する事由は、除名決議自体の効力に影響なきこと論を俟たない。

以上の如く控訴人には除名に値する事由存し、除名決議の手続上にも何等の瑕疵なきものであるから、決議は有効に成立し、控訴人はこれにより被控訴会の会員たる地位を失うに至つたこと明かである。

されば控訴人の本件除名無効確認の請求はこれを認容し難く、同一趣旨の下にその請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴はその理由なきものである。又控訴人に対する常任理事罷免京都支部長解任及び大木勇に対する常任理事京都支部長任命の無効確認を求める請求部分も、控訴人の除名が有効である以上、單なる過去の事実の確認を求めることに帰し、その即時確定の利益を有せざるものとしてこれを排斥すべきであるから、民事訴訟法第三百八十四條第八十九條第九十五條に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)

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